現代のソフトウェア開発の現場では、時には破壊的創造が、そして時には終わりなきカイゼンが必要とされます。チーム/プロダクト/事業/組織・・・自分と他者を隔てる境界を前に、そこに縛られ膠着状態に陥るのではなく、視点を軽やかに移動すること、そして越境すること。それこそが新たな時代を担うエンジニアにとって必要な資質ではないかと考えます。本セッションでは、三人の越境者がビジネス、組織、人、それぞれの領域で、終わりなき越境に挑んだ軌跡を語ります。そしてその先に見えた地平とは何か?乞うご期待。
【時を超えた越境への道】 市谷 聡啓
事業、その中核となるプロダクトをつくり、ユーザーに確かに届けていくためには、誰のどんな問題をどのように解決するのかという問いに向き合い続ける必要があります。具体的には仮説を立て、検証し、学びをプロダクトという形に繰り返し仕立てていくこと。仮説検証とアジャイル開発は、正しいものを正しくつくるための両輪といえます。しかし、技芸だけでは辿り着けない境地があります。自分の立ち位置や役割を越えて、目的を問い直し、いまここの行動を変えようとする「越境」が、これから何をしていくべきか気づかせてくれます。越境は、そうせざるを得ないような「事件」や、自分への「揺さぶり」がきっかけとなります。私にとってはこのデブサミが始まりにあたります。10年前、現場のデベロッパーから、現場や組織を変え、組織を越えたコミュニティをつくり、コミュニティから自分たちの会社を旗揚げし、今、越境をセンターに置いて活動し続けています。このセッションが皆さんにとっての事件となるよう、お話をつとめたいと思います。
【新規事業が対峙する現実から エンジニアリングを俯瞰する】 黒田 樹
エンジニアとして価値貢献をするために現場改善をしようとしても、組織の壁、人の壁、ビジネスの壁により思うようにことが進まないことがあります。そのような壁によって、ただただ、純粋に現場を良くしようと思っただけであるエンジニアの善のモチベーションが折れてしまうこともあるかと思います。しかしながら、視点を変えてビジネスサイドから見ると、それが何の意味があるのかが単純に理解出来ないだけの場合もあります。または、同じゴールを目指しているのに、それぞれが追っている目標(の表現)が別々に見えるだけのこともあります。エンジニアからビジネスサイドへ越境し両方を経験した結果、そちらからエンジニアリングを見たときに見える視界で、プロダクトが対峙する現実(ビジネスモデル、ビジネスのフェーズ等)から価値貢献するためのエンジニアリングの座組を俯瞰してみたいと思います。
【ソフトウェア開発の中心にあるのは「情緒」である】 新井 剛
視線をずらせば、そこには「見える化・カイゼン」があります。同時に「メンバー自身が楽しく仕事をする仕組み」がいたるところに存在しています。6年前にはホワイトボードも付箋紙も皆無でした。そんな会社にいつの間にか「見える化」の文化が浸透し、「カイゼン」が当たり前のように使われるようになりました。約30年の秘伝のソースで走り続ける経路探索の「駅すぱあと」を司る部門長として、手掛けてきたマネジメントの心と組織活性化のアクティビティを紹介するとともに、その地平線から見えてきた世界、越境の意味、そのいとぐちをお話します。
市谷 聡啓 [ギルドワークス]
ギルドワークス株式会社
代表取締役
DevLOVE
システム企画案やサービスのアイデアからのコンセプトメイキング(プロダクトオーナー支援)や、アジャイル開発の運営・マネジメントを得意としています。プログラマーからキャリアをスタート。SIerでのプロジェクトマネジメント、大規模インターネットサービスのプロデューサー、アジャイル開発のマネジメントを経て、ギルドワークス代表に。それぞれのフィールドから得られた実践知で、ソフトウェアをお客様・開発チームと共創します。訳書に「リーン開発の現場」がある。
黒田 樹 [リクルートテクノロジーズ]
株式会社リクルートテクノロジーズ
ITマネジメント統括部 ディベロップメント2部 DevOps推進G
SIerにて官公庁系の大規模開発のシステムアーキテクトとして幾つかの開発を経てリクルートホールディングスに入社。新規事業開発部門であるメディアテクノロジーラボに在籍。サービスのヒットに伴い急速に肥大化しカオスになっていく組織に対して、スクラムやリーンスタートアップの考え方を適応させることで、ビジネス成長に寄与するエンジニアリング体制を構築。その後、様々なチームに対してスクラムやリーンスタートアップの導入支援を実施。昨年度はマイナー出資先の海外スタートアップのグロース支援を担当。今年度からはリクルートテクノロジーズに籍を移し新人エンジニアの育成、組織運営および新規事業領域の開発マネジメントなどに従事。
新井 剛 [ヴァル研究所]
株式会社ヴァル研究所
開発部 部長
DevLOVE
2005年に入社し、緊急地震速報や駅すぱあとのミドルエンジンを開発しました。現在は、駅すぱあとエンジンを司る部門長として組織をマネジメントしながら、全社にアジャイルコーチ&ファシリテーターとして見える化・カイゼン・自働化文化を展開中です。CodeZine Academy ScrumBootCamp Premiumのチューターや勉強会コミュニティの運営や講演も実施しています。アジャイル、マネジメント、組織論、リーダーシップ、イノベーションなどをひたすら学び実践するチェンジ・エージェントです。