A-1 09/18 10:00 ~ 10:40
コンピュータ技術とサイバーセキュリティにおける日本の課題、人材育成法および将来展望

     

現代日本社会はインターネットやクラウド等のサイバー技術に依存するようになった。ところが、サイバー空間においては、最近、極端な力のアンバランスが発生している。現在の日本には、米国や中国等の企業技術人と同水準の組織や人材の数が、とても少ない。世界に普及するようなサイバー技術を作れる人材が不足している。それどころか、各組織が安易で硬直的で脆いサイバーセキュリティ対策手法に依存した結果、日本組織の人材のコンピュータ・リテラシ低下はかなり深刻なレベルとなっており、基本的なサイバーセキュリティ上の自組織防衛能力すら有さない、極めて脆弱な状態にある。

この深刻な問題を解決し、世界最高レベルのサイバーセキュリティを実現するためには、サイバー空間を織りなす技術や構成要素、動作原理等の本質を広く深く理解し、かつ自ら技術革新が可能な日本人の数を、日本組織で増やす必要がある。そうすれば、彼らが実際に試行錯誤の結果新たなサイバー技術を作り出し、これらが自然に全世界で普遍的に利用される状況が作り出され、日本のサイバーセキュリティ能力は向上する。

すなわち、日本の組織やその人材が、サイバー空間の内側に埋没した単なる一ユーザーという現在の不満足な被治者の地位を卒業し、サイバー空間そのものを作っていく強力で高貴な治者の立場を獲得する必要があるのである。そのためには、日本の各組織における若手人材に、単にユーザーとして技術を使うだけでなく、自らサイバー技術を作り出すような試行錯誤を促す必要がある。そうすれば自律分散的・免疫的な組織的セキュリティ能力と技術力が、これから、日本の各組織から自然に発芽すると思われる。

登 大遊[情報処理推進機構 (IPA)]

独立行政法人 情報処理推進機構 (IPA)
サイバー技術研究室長

日本の企業や行政機関等のテレワークシステムや、世界中で700万ユーザー利用のSoftEther VPNセキュリティソフト等を開発しているソフトウェア技術研究経営者。2004年に筑波大学在学中にソフトイーサ株式会社を起業。2017年博士(工学)。2017年から筑波大学産学連携准教授(2022年から客員教授)、2018年から独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)サイバー技術研究室長。2020年からNTT東日本本社 特殊局員(いずれも現役)。